競馬の魅力はたくさんありますが、その中でも白熱するレース中継から競馬に興味を持った人は多いでしょう。
大逃げで後続に影すら踏ませない競馬をする馬もいれば、好位から先行競馬で勝利をつかもうとする馬もいます。
しかしながら、それまではるか後方に位置しながらも痛烈な末脚を伸ばして勝利する追い込み馬の競馬も見入ってしまいますよね。
ここでは、競走馬の脚質の中でもあまり見かけない追い込み馬について、解説していきます。
《この記事で分かること》
- 追い込み馬の魅力を知ることができます。
- 代表的な追い込み馬が分かります。
- 追い込み馬と差し馬の違いが分かります。
- 追い込み馬の長所と短所が分かります。
追い込み馬の魅力
追い込み馬の競馬にはどのような魅力が詰まっているのでしょうか。
追い込み馬の競馬がなぜ、競馬ファンの心をつかんでいるのか、追い込み馬の競馬スタイルを紹介します。
見ごたえのあるレースを魅せてくれる
なんといっても映像映えする競馬を見せてくれるのが追い込み馬の特徴です。
スタート直後は控えて馬群の最後方に位置しながらも、レース終盤に徐々に動き出して、最後の直線で最高速度でターフを駆け抜ける姿は見栄えするものがあります。
先行馬や差し馬も強い競馬を行いますが、一頭だけ目立った末脚を使って先頭に立とうとする姿はなんといっても目立ちますし、応援していなくてもつい目を向けてしまう魅力がありますね。
ごぼう抜きする姿がかっこいい
追い込み馬はどうしてもレースの最後方で競馬するので、勝利を手にするには、前を走る馬を全頭かわします。
前を走る馬が内ラチに近い位置で競馬する中、一頭だけ馬場のよい外目から進出を開始し、先行グループを追い越す姿は純粋にかっこいいです。
過去の名馬の中でも、追い込み競馬で人気を集めた馬はたくさんいます。
例えば、競馬にくわしくない人でも名前は知っているディープインパクトは典型的な追い込み馬で、競馬に興味のない人の心までつかんでしまいました。
また、ゴールドシップもその美しい芦毛の馬体と、向こう正面からの超ロングスパートで一躍競馬界の中心に立ちました。
前に行く馬のみならず、競馬を知らない人のハートまで捕らえてしまうのが、追い込み馬なのです。
代表的な追い込み馬
追い込み馬は先行馬や差し馬に比べると、絶対数が少ないのが実情です。
しかしながら、確かな実力で競馬界を盛り上げた追い込み馬もいます。
ここからは、過去に活躍した追い込み馬の中でも知名度の高い馬を3頭紹介します。
ディープインパクト
最初に紹介するのは、競馬を知らない人でも名前は聞いたことがあるであろう、名馬中の名馬であるディープインパクトです。
新馬戦から引退まで手綱を握ったのは生きる伝説ともいえる武豊騎手です。
武豊騎手がはじめてディープインパクトに騎乗した際、
「飛ぶように走る」
と興奮気味に話されていたようです。
その、飛ぶようにして走る競馬でディープインパクトはデビューから抜群の成績を残しました。
新馬戦から、若駒ステークスを経て挑んだ弥生賞を快勝。
それどころか皐月賞も、ダービーも、そして菊花賞も一頭だけ別格の強さで勝利し、競馬史上2頭目となる”無敗の三冠馬”になりました。
古馬になってからもその実力は健在で、天皇賞(春)や宝塚記念、ジャパンカップに有馬記念と、4歳時点でG1タイトルを7つ手にしました。
まだまだ現役で活躍できるはずだったディープインパクト。
しかしながら、ディープインパクトが生誕した年に、父のサンデーサイレンスが死去したことで、ポストサンデーサイレンスの確保が生産者の間で急務となりました。
そのため、ディープインパクトは4歳の有馬記念を最後に引退することになりました。
引退後、種牡馬入りを果たしたディープインパクトは、父に負けないほど、数多くのG1ホースを輩出しました。
2019年の夏、頸椎の骨折のためにディープインパクトは亡くなりましたが、ディープインパクト、そしてサンデーサイレンスの血を継いだ産駒はいまでも種牡馬入りを果たしています。
スイープトウショウ
スイープトウショウはディープインパクトよりも一つ年上の牝馬です。
秋華賞・エリザベス女王杯、宝塚記念と3つのG1タイトルを手にしました。
関係者によると、とにかく気性が激しくてわがまま、なかなかいうことを聞いてくれない馬だったようで、調教ができなかった日も多々あったそうです。
ゲートもろくに入らない馬で、スイープトウショウが出走するレースでは馬番問わず、スイープトウショウが1番目にゲート入りする措置が取られるほどでした。
ゲートでは多くのゲート委員を困らせていて、ディープインパクトの引退レースとなった有馬記念ではゲートに入っただけで歓声が沸き起こるほどでした。
気性難で気難しい馬でしたが、いざレースに出走すると一変します。
持ち前の末脚をフルに活かした追い込み競馬は牡馬相手にも通用しました。
2005年の宝塚記念では、国内馬で唯一ディープインパクトに先着したハーツクライを捕らえて、牝馬としては39年ぶりの宝塚記念を制しました。
当時、ほとんどのビッグレースタイトルが牡馬に集中していた時代に活躍したスイープトウショウは、牝馬時代到来の火付け役となったのです。
ゴールドシップ
芦毛の美しい馬体と、気性の荒さがギャップとなり、多くのファンの心をつかんだゴールドシップも追い込み馬として競馬界で活躍しました。
父はステイゴールドで母の父はメジロマックイーンです。
歴史的三冠馬となったオルフェーヴルと同じニックスで生誕した馬です。
ゴールドシップの追い込み競馬は、先ほど紹介したディープインパクトと違い、向こう正面から、無尽蔵のスタミナをフルに活かしたロングスパートを得意としました。
とにかくスタミナとパワーのある馬で、向こう正面からまくり上がるだけで歓声が沸くほどです。
直線でもスピードを落とすことなく、先行集団を捕らえて勝利し、最終的にG1タイトルを6つ手にして引退しました。
現在は種牡馬入りし、ユーバーレーベンやウインキートスといった重賞馬を輩出しています。
追い込み馬と差し馬の違い
追い込み馬に似た競馬を行うのが差し馬です。
差し馬も追い込み馬も後ろで脚を溜め、ラストスパートで勝負する姿が類似するので、差し馬と追い込み馬の区別のつけ方が分からないという方もいるでしょう。
差し馬はあくまでも中団よりも後ろで脚を溜めるのに対し、追い込み馬は馬群のほぼ最後方から競馬を行うことで分別できます。
ポイントは前半の位置取りですね。
典型的な追い込み馬は極小
典型的な追い込み馬は少ないです。
なぜなら、競馬は出馬次第で位置取りがガラリと変わるからです。
例えば、追い込み馬が多数揃ったレースでは何頭かの追い込み馬はどうしても中段より後ろで競馬するでしょう。その場合は差し馬扱いされます。
追い込み馬はどんな条件下でも常に前半は後方に位置することが条件です。
差し馬と追い込み馬の定義は非常に難しいところがありますが、最後方から差し切るスタイルを常時行っている馬こそが、生粋の追い込み馬と呼べるでしょう。
追い込み馬の好走率が低い理由
実は、追い込み馬の好走率は決して高くはありません。
前を行く逃げ馬や先行馬と比較しても、勝率、連対率、複勝率は追い込み馬のほうが下回ります。
どうして追い込み馬は好走率が低いのでしょうか。
ここからは、追い込み馬の好走率が低い理由を解説していきます。
レース展開に左右されやすい
追い込み馬は自分でレースをコントロールすることができません。
それもそのはずで、追い込み馬はスタート直後、意図的に後方に下がるため、自分で競馬する権利を放棄しています。
レース展開は逃げ馬や先行馬に任せっきりです。
逃げ馬や先行馬が作ったレース展開の中でどのように自分の力量を発揮させるかが追い込み馬の仕事になります。
しかしながら、スロー競馬のために逃げ馬や先行馬に余力があれば、いくら末脚を伸ばしても、前の馬を捕らえるのが厳しいこともあります。
自分でレースを作れないということは、それだけ相手依存の競馬となってしまうため、好走率は必然的に低くなる傾向があります。
逃げや先行よりも距離を走らされる
結論からいうと、追い込み馬は逃げや先行馬よりも距離を多く走っています。
例えば、最後のコーナーで追い込み馬がスパートをかけるとします。
しかし、いくら加速しても前に他の馬がいるとかわす必要があるので、必然的に外を回されてしまいます。
また、直線でスパートをかける際も、前にいる馬が壁になる関係上、どうしてもかわして進出を開始するので、追い込み馬は指定距離以上の距離を走らされます。
馬群が前にいると抜け出さないといけない
先ほども触れましたが、追い込み馬は前にいる馬をかわして勝利をつかむ競馬を得意としています。
どれだけ最高速度で競馬をしても、馬群が前にいると衝突してしまうので、失速せざるを得ないこともあります。
なぜなら、最高速度で他の馬にぶつかってしまうと大事故につながりかねないからです。
どれだけ天下一品の末脚を持つ馬でも、馬群が壁になってしまうことで凡走することもしばしばあるのが追い込み馬の宿命ともいえます。
追い込み馬が好走するには、勝負所における他の馬の位置取りも重要になります。
しかしながら、他の馬の位置取りに関しては追い込み馬自身でどうにかできるものでもないので、追い込み馬が結果を残すには、ある意味で天命に祈る場面もあるのです。
追い込み馬の長所
ここまで追い込み馬が好走しづらい理由をいくつか述べましたが、短所ばかりではありません。
追い込み馬がほかの脚質を持つ馬に負けない長所も存在します。
最後に追い込み馬が有利となる条件を紹介します。
先行争いで体力を消耗しない
追い込み馬はスタート直後、意図的に後方に立つスタイルで競馬を行います。
それに対して、逃げ馬や先行馬は先方の主導権を確保できなければ自分の競馬を行うことができないので、どうしても前のポジション争いを行いがちです。
追い込み馬は無理に前に行く必要がないので、どのような展開に陥ったとしても自分の競馬に集中できるのが利点です。
ペースに流されづらい
レース展開を作るのは逃げや先行馬の役割です。
追い込み馬は無理にペースを作ることがなく、自分の競馬に集中しやすいです。
そのため、自分のペースをキープしやすいメリットがあります。
また、競走馬は団子状態で競馬をすると、かかりやすい馬はペースが乱されやすいです。
半面、追い込み馬は馬群から離れて競馬を行うので、かかり辛く、レースにおけるストレスも抑えることができます。
ゲートの影響が小さい
逃げ馬や先行馬はいかに早く前のポジションを確保できるかが重要になります。
しかし、追い込み馬は例え出遅れたとしても元々最後方のポジションから競馬をするので、ゲートで出遅れてもそこまで大きな問題にはなりません。
ただし、2015年のゴールドシップのように、立ち上がって1秒以上も出遅れるのはさすがに問題ですね。
まとめ
追い込み馬はどうしても後方から競馬する関係上、逃げ馬や先行馬よりも好走率が低くなりがちですが、出し切れた時の末脚は一級品ですね。
レース展開に左右されがちなので、どうしても勝ち続けるのは難しいですが、デイープインパクトのように勝ち続けられる追い込み馬の実力は本物です。
ところで、現在も活躍している追い込み馬はたくさんいます。
もし、追い込み馬に興味があるのなら、ぜひとも追い込み馬のレースを見てみてください。
鋭い末脚で勝ちをつかみ取ろうとする追い込み馬の姿にくぎ付けになるかもしれませんよ。